【コラム】イギリス国民がEU離脱を最終決断したことの意味

 イギリスでEU離脱の国民投票が実施されたのは、2016年6月のこと。

国民投票の結果に忠実にEUとの離脱交渉を進めていたメイ前首相でしたが、EUと国民との

板挟みになって身動きが取れなくなり、辞任しました。

 今年7月に就任したジョンソン首相は、EUとの協議としての離脱期限延期などの交渉や、

国内では今回の総選挙で民意を問うなどの打開策を模索していました。


 私は、今回の結果はイギリス国民の不快感が表面化したものだと受け止めています。

 一つは、EUに対する不快感。

過去の大英帝国の栄光をもう一度!と思い描く人にとっては、EUは邪魔者としてしか映りません。

外国人労働者の増加で職を追われた中産階級。関税が撤廃されて安いEU製品に市場を奪われた

中小企業経営者。「EUに加盟しているから、イギリス独自の政策ができない」と言う不快感を

強く感じていたようです。

 もう一つは、イギリス政府に対する不快感。

国民投票で方針が決まったのに、なぜぐずぐずして動けないのか。

イギリスの主張を、なぜもっと強く出せないのか。

こんなイライラ感を、私は感じました。

 実際のところは、より大きな経済圏で活動した方が、イギリストータルとしての経済的な

メリットはあるはずです。「規模の経済」と言われますが、まとめ買いすると安くしてくれと

交渉しやすくなるのと同じ原理です。

 でも、これは理屈の話。

感情が決断を左右すると、理屈は通じなくなってきます。

 その結果として、EUとの合意ができないままに離脱してしまうリスクも浮上しています。

イギリスは島国のようですが、北アイルランドは隣国のアイルランドと国境を接している

のです。解放されていた国境が閉じられると、近くに住んでいるイギリス国民にとっては不利益になる可能性もあります。

 ラグビーW杯でお分かりのように、イギリス国民はイギリス人というアイデンティティよりも、イングランド、ウエールズ、スコットランド、アイルランドというアイデンティティが強いお国柄。そうなると、北アイルランドやスコットランドが独立することにもつながりかねません。

民主主義とは、国民みんなが同じだけの情報量と、分別がつく理解力を持っていてこそ成り立つ制度。気に入らないから、さっさとやれ、では、相手がある交渉なんてうまくいきません。

 近代民主主義発祥国イギリスで、理屈よりも感情が優先されるということが確認できた今回の総選挙。世界は今、より小さな共同体への帰属意識が高まっていることを感じ取ることができました。残念ですが、これが現実なのですね。

偉大な組織とは。 議論の対立があっても、一旦議論が終わればリーダーの元に再結集する。
そして、困難を克服することができる。

 EUからの離脱を決断した、イギリス国民。
そうあってほしいと、エールを送ります。